〜9.蜜の味 その二〜
突きと蹴りを三百本づつ、その後は基本を飛ばして組手中心の稽古に移る。
その日参加した三十名強の門下生の中で、黒帯は和希を含め四名。後は茶帯が二十名強、残りは緑帯、黄帯が数名づつ。
皆、次回の昇段、昇級審査を見据えての参加であり、五名の本部の師範を招いての今回の稽古は、幾分殺気立った緊張感が道場内に溢れていた。
中盤の30分以上ぶっ続けで行われる自由組手、和希達黒帯は茶帯、緑帯に胸を貸しながら次々と相手を変えていく。
白帯から始まり、真面目に稽古を続けて強くなれば緑帯までは順調に進む。しかし、茶帯となると途端にそのハードルは上がる。和希達の流派では茶帯であれば、腕自慢の素人が何をしたってほぼ遊ばれるレベル。
しかし、その先の黒帯は遥かその上を行く。茶帯と黒帯の実力差は天と地の差。次回の昇段審査を受ける二十名の茶帯の内、無事有段者となれるのは、恐らく五名もいないはず。
だからこそ、和希達黒帯は道場生達からいつも羨望の眼差しで見られる存在だった。茶帯以下の色帯達にとって黒帯との組手は、逃げ出したくなる程の恐怖心と隣り合わせではあるが、自分の力量を測る絶好のチャンスでもあり、ここぞとばかりに皆全力で黒帯に向かって行くのである。