「……にん?主任?」
ふと顔をあげると、俺を呼ぶ声がした。
慌てて隣を見ると、そこにはいつも通りほぼ丸刈りの林の姿。
小柄な割にはプロレスラーのような肩幅は、
柔道でのインターハイ出場は伊達じゃないことを主張していた。
「主任?どうしたんすか?ぼーっとしちゃって」
缶コーヒーを片手に、林は眉をしかめてそう尋ねる。
「いや悪い、なんだっけ?」

ところどころが薄汚れた白い長テーブルに、
味気ない座り心地のパイプ椅子。
いつも通りの会社の休憩室。

俺はついつい、昨晩の出来事を考えてしまっていた。
もう気にしないと決めたのに、
やはり何だかんだで気になってしまう。
いっそのこと、笹島に問い掛けてみようか。
そんな馬鹿らしい考えが脳裏によぎる。
そんな情け無い話が出来るわけがない。

「主任お疲れっすか?やっぱ嫁が身重だと色々あるんすね」
「あ、ああ。まぁな」
「まぁ島崎なら大丈夫ですよ。ほら、あいつ華奢だけど安産型っぽいじゃないですか?」
林なりに俺を元気づけようとしてくれたんだろう、
口端をいやらしく吊り上げて、両手で大きな桃を描くようにジェスチャーをすると、
片目をバチっとウィンクをして笑い飛ばした。
「枝里子にそう言っておくよ」
俺は呆れ笑いを浮かべ、後輩の気遣いにそう応える。
「いやマジで勘弁してください。島崎って主任以外には結構怖いんですから」
さっきまでの軽い表情とは打って変わって、
引きつった笑顔で両手を胸の前で激しく振る。
「そうなのか?そうか。あんまりあいつのそういう顔を見たことないな」
「あーはいはい。ノロケですね?」
「馬鹿違うよ」

軽口を叩きあっていると、気分は大分楽になっていく。
その影響だろうか、俺はついつい言葉をこぼす。
「そういやさ、笹島って彼女いるのか?
 モテるだろ?社内とかでもさ」
「え?笹島?さぁ。あいつそんなの話さないですもん。
 あ、俺はいませんよ?」
「そっか。お前でも知らないのか」
社内で孤軍奮闘をしている笹島にも、
この林だけはわりと積極的に話しかける。
良く言えば誰にでも分け隔てなく、
悪く言えばデリカシーがない。
ずけずけと思ったことを直接自分の口で伝える。
それが俺が林を気に入っている個性だった。
社会人になってしまうと、
なかなかこういう人物と出会える機会は少ない。

「何でですか?」
「いや別に」
「まぁ今でも女子社員にはモテてるみたいですけど」
「そりゃまぁそうだろうな」
「何でですかね?」
「そりゃ見た目だろ。仕事も出来るし」
「でもアホみたいに無愛想ですよ?
 餓死寸前の遭難者でももう少し喋るぞってくらい」
「そこがまた良いんだろ」
「わっかんないっすね。俺も中々良いと思うんだけどなー」
「今度枝里子に頼んどこうか?友達を紹介とか」
「え?マジっすか?……いやでも止めときます」
「何でだよ?遠慮すんなよ。あいつの友達も綺麗な子多いぞ?」
「いやあいつって本当主任以外には厳しいんですって。
 『そんな事してる暇あったら残業でもしてたらどうなの?
 というか男ならそんな手助け恥ずかしくないの?』
 なんて説教されるに決まってますもん」
「お前枝里子にビビりすぎだって。
 そんな事言うわけないだろ」

「そんな事してる暇あったら残業でもしてたら?って伝えといて」
晩御飯の準備をしながら、俺の方を振り返らず枝里子はそう言った。
俺は笑いを噛み殺すので精一杯。

『まぁ、一応。駄目元で頼んどいてくださいよ』
林のその頼みには、応えられそうもなかった。

「まったく」
枝里子は口をへの字に曲げて、食卓に夕餉を並べていく。
「手伝おうか?」
「ありがと。でもすぐだから」
手際良く、いつも通り色とりどりの、
匂いだけで腹の音が鳴りそうな料理が並ぶ。

「林とももう大分会ってないだろ?」
「そうね。新築パーティー以来かな」
「今度家に呼んでもいいか?」
この家を建てた時に、他の後輩と呼んで以来、
誰も招待してないなとふと気づく。
それも寂しい話だ。
枝里子も気を使わなくても良い相手だ。
しかし彼女の箸は、俺のその言葉を契機に、ぴたりと止まる。
眉間に指を押さえて
「……うーん」と小さく唸った。
「なんだよ?嫌そうじゃないか」
「ごめん。実はあたし、林君もちょっと苦手なんだ」
「え?そうなんだ?」
「うん、ごめんね」
申し訳無さそうに、両手を前で合わせる枝里子。
「まぁデリカシーないもんなあいつ」
「うん。男同士ならいいんだろうけど、
 女はちょっとね。ああいうタイプはね」
その言葉に僅かな落胆を覚えるも、
実際林のガサツさを嫌っている女性社員も確かに多い。
酒の席になると、迷わず下ネタを大声で話すのはそろそろ止めさせるべきか。
「そっか。まぁそれなら仕方ないな。
 でも林は貴重なんだぜ?
 あの笹島とも結構喋るからな」
「へー」
枝里子は心底興味無さそうに相槌を打つと、
「あたしにとっては浩次君以上に大切な人居ないしなー、とか言っちゃったりして」
と頬杖をつきながら、挑発するような笑みを浮かべ、
俺の目を見つめてきた。
いつもはあけすけとした態度がチャーミングな枝里子が、
そんな妖艶な仕草をすると、それは反則的なまでに可愛い。
現在進行形で、惚れ直していると、
枝里子は頬杖をついたまま、ピーマンをフォークで刺し、
「はい、あーん」
とそれを俺の口に放り込んできた。
俺は枝里子から目が離せず、胸の高鳴りを抑え切れないまま、
ピーマンを咀嚼しつづけた。
枝里子は、その様子を、ずっとニコニコしながら見つめてきた。

枝里子はリビングでTVを観ている。
俺は仕事を持ち帰ってきたと嘘をついて、
一人寝室でPCを起動させた。

あれから色々考えたが、
あれがもし実話だったしても、
例え枝里子にどんな過去があったとしても、
俺はそれを受け止め、
そして彼女を愛し続けると覚悟を決めれた。

だから、知りたいと思った。
彼女のことを、
全て。

そう決意し、緊張で僅かに震える手を押さえ、またあのページをクリックする。




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第三話


エリコは今まで出会ったどの女性とも違った。
それは単純に女性として魅力的、というだけでなく、
どこか他人を近づけがたい雰囲気も持ち合わせていた。
それが余計に男を掻きたてるのか、
彼女の周りには、いつも男が群がっていたし、
そうでない時も、遠くから視線を浴びていたことだろう。
しかし彼女は、男に媚びることなど一切なく、
むしろ男というものを嫌悪している節すらあった。

後にエリコ本人から聞いた話だが、
中学のころに離婚し、離れ離れになった父親がどうも相当酷い男だったらしく、
それが彼女の男嫌いに関わっていたのではないかと容易に推測できる。
具体的にどんな仕打ちを受けたのかまでは、
言いたくなさそうだったし、だから聞かなかった。
ただ今思うと、エリコはそれを聞かれることを望んでいたのかもしれない。
それを吐露することで、過去と決別したいという思いがあったようにも思えるのだ。

とにかく、僕とエリコが毎晩のように、
お互いの身体を求め合うような仲になったのは、
その父親がきっかけとも言える。

あれはただの偶然だった。
とある会社帰りの繁華街の夜道。
脇に逸れた路地裏の物陰から、男の怒号が聞こえてきた。
はっきりとその内容が聞こえたわけじゃないが、
口調などからは、その叱責する相手を執拗かつ遠回りに、
まるで蛇のようにまとわりつきながら、
責め立てていることが容易にわかった。
道行く人々も、ただの痴話喧嘩だろうとタカを括って通り過ぎていたが、
そのあまりにも他人への敬意を欠いた執拗な怒号に、
誰もが顔をしかめつつ通り過ぎていた。

当時退屈な会社勤めにほとほと嫌気が差していた僕は、
物見遊山のような気分で、その痴話喧嘩を覗いた。

しかしそれは痴話喧嘩などではなく、
中年の男性が、おそらくまだ二十歳にも満たない女性を、
まるで教師のように説教を捲りたてているだけだった。
それは言うまでも無く、エリコとその父だった。

エリコの父親は、見た目だけならその辺の大手企業の、
それなりの役職に就いているであろうことが想像に難くない、
上品で、洗練された中年男性だった。
知的そうな顔つきと、細身の長身もエリコそっくりだった。

問題は、僕が顔を出した瞬間、その男性の平手が、
エリコの顔を叩いたということだ。
それも男が女にするような手加減をしたものじゃない。
平手というよりは、掌底という表現のがより当てはまる。
それは躾のための威嚇などではなく、
相手を打ちのめすための暴力だった。
バシン!などという乾いた音ではなく、
ゴツッ!という、聞いただけで顔をしかめたくなる音が響いた。

自分が正義感溢れる人間だなんて、これっぽっちも思わない。
遠く離れた異国で、どれだけの人間が戦争で命を落とそうが、
心を痛めたことなどただの一度もない。

しかし、目の前で女性が(おそらくは理不尽な理由で)
殴られた現場を目にした僕の足は、
自然にその二人の間に入り、
そして男と口論をし、そして手が出た。

気がつけば僕の顔はボコボコに腫れ上がっていた。
「あの人……ボクシングジム通ってるから」
僕の顔にガーゼを張りながら、エリコは申し訳なさそうにそう言った。

つかみ合いの途中、遠くからパトカーの音を聞いた僕は、
エリコの腕を掴み、自分のアパートへ走っていた。
その腕の先の女性が、同期入社の同僚だとわかったのは、
アパートについてからだった。
路地裏は暗かったし、エリコは一言も喋っていなかったから。

「ごめんなさい……」
そう口にするうな垂れた彼女は、会社で見る自信に満ち溢れた女性とは程遠い、
一人のか弱い女の子だった。

僕ほどではなかったが、頬を腫らした彼女は心身共に弱りきっていた。
その心の隙間を縫うように、僕は彼女を押し倒した。
普段ならそんな強引な手は使わない。
自分から顔を出したとはいえ、僕もまた理不尽な暴力の被害を受け、
むしゃくしゃしていたんだろう。
そして何より、前々から機会があれば抱きたいと思っていた女性だったというのも正直なところだ。
彼女は男に作り笑いを振りまくだけの、安っぽい会社の女とは一線を画していた。

彼女の方も特に抵抗はなかった。
自暴自棄に陥っていたということもあったろうし、
僕に対する負い目もあったんだろう。

少々、
いや正直飛び上がるほどに驚いたのは、
彼女が処女だったことだ。
どう低く見積もっても、人並み以上である彼女の器量からは、
その事実は僕にとっても衝撃を受けるに値するものだった。
僕のように、他人を遠ざけるような幼稚さも持っていない。
きっと彼女は、頑なに男性を拒み続けていたのだろう。
作った照れ笑いを浮かべながら、告白の列を為す男子をいなしていく。
そんな学生時代がありありと脳裏に浮かぶ。

そんな彼女に
「なんで僕に許したんだ?」
と愚直に尋ねたことがある。
「別に。ただのやけっぱち」
と溜息交じりに答えが返ってきた。

それから、エリコとの半同棲生活が始まった。
僕は彼女と一緒にいるのが好きだったし、
彼女もそうだったようだ。
彼女もとうに親元から自立していたので、
その移行作業はとてもスムーズに進んだ。

当時僕に付き合っている女性はいなかったし、
彼女にも当然居なかった。
彼女は家事は得意だったから、料理も外食だらけだった僕には、
あり難いほどに経済的かつ健康的で、そして美味だった。
何より身体の相性は今まで感じたことがないほどに抜群で、
毎晩のように僕は彼女を求め、
そして彼女も僕を求めてくるようになった。

前述したとおり、フェラチオを教えると、
それを気に入り、週末の僕の性器は、
彼女の唾液で常にふやけているといった状態だった。

一緒に入浴する、という機会が度々あったのだが、
その度に彼女は、狭い湯船の中で僕の腰を浮かせ、
そして飽きることのないようフェラチオを続けていた。

一見他人に無関心な彼女の性質は、
それが一旦裏返ると、それは彼女が本来持つ被虐嗜好と相成って、
奉仕を好むものへと変わるようだった。
彼女は最後まで認めなかったが、
極度のマゾっ気を持っていたことは明白だった。

毎晩のように身体を重ね、愛を囁きあい、
週末には手を繋いで小旅行に出かける。

そんな事を続けていれば、彼女が僕に情を移すのは当然だろう。
僕にそんな気はなかったけど、
まぁ彼女が魅力的だったのは間違いがないから、
ただのキープのつもりでそんな付き合いを続けていた。

いつしかエリコは、父親の暴力から身体を張って救った僕を、
まるで親鳥を見るかのような目で見つめてきたのだ。
それが陳腐なヒロイズムからくる感情だとは、
彼女自身も理解はしていたと思う。
それでも、彼女は欲しかったのだろう。
縋りたい何かが。

しかしそんな彼女にとっての蜜月の時間も、やがて終わりを迎えた。
詳しくは次話に書こうと思う。

ただこれだけは最初に書いておきたい。

僕と別れた現在の彼女は、今ではもう結婚している。

その相手は、僕と彼女の先輩で、
下らない人間ばかりの会社の中では、
まぁわりと信頼に値するような人だった。
どうせならこの人の下で働きたいと思える程度には。

彼女は幸せそうだった。
傷心による自暴自棄でもなく、
妥協でもなく、
いやもしかしたら最初はそうだったのかもしれない。
しかし今の彼女は、その人を、心から愛しているようだった。

彼と一緒に居る時の彼女は、本当に幸せそうに笑っていた。
心から安らぐ場所を見つけたのだろう。
彼女自身も気づいていないだろうが、
彼女は彼と付き合うようになって、明らかに変わっていった。
どこか世間を斜めにみる、冷たかった彼女の目は、
日々穏やかなものへと変わっていった。

僕もエリコを憎んでいるわけじゃない。
むしろ好意的な感情しか抱いていなかったから、
そんな彼女を、心の中で祝福した。



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俺は予めテーブルに準備しておいたコーヒーに口をつける。
その苦味もわからぬまま、
ただ乾いた喉を潤すために、
その黒い液体を機械的に喉へ押し込んだ。

未だ創作か実話かを判断する明確な根拠はない。
しかし、一つ確実なのは、
エリコのモデルは枝里子だということ。

確かに彼女の父は、インテリな雰囲気を持ちながらも、
時折暴力を振るう人だったとは、
お義母さんから聞いたことがある。
少なくとも今では、もう関係が無いはずだ。

ノックが響く。
慣れのせいか、先日ほどは驚愕しない。
カモフラージュ用の報告書ファイルを立ち上げる。
「お疲れ様ー」
そう言いながら、枝里子がコーヒーのおかわりと夜食を持って顔を覗かせた。
俺は無言で椅子を引き、それらが乗ったお盆を受け取る。
そしてそれが机の上に置かれるのを確認すると、
枝里子はふと寂しそうな笑顔を浮かべ、
「無理、しないでね?」
「ああ、わかってるよ。身体を壊しちゃ元も子もないしな」
動悸が治まらぬ内心を隠し、ただひたすらと平静を装う。
枝里子はふぅ、と溜息をつくと、ベッドに腰をかけた。
「ねぇ?別に今のままでも生活は大丈夫なんだからね?」
「そりゃそうだけどさ。備えあれば、って言うだろ?」
彼女は俺の言葉に、やはり寂しそうに微笑むと俯き、
「でもやっぱり、せんぱ……浩二君頑張りすぎちゃうとこあるし」
「そんなことないさ。ちゃんと自制も利かせるよ。自分だけの身体じゃないんだしな」
「だって、昨日だって……」
「昨日?」
「変なサイト……観てたじゃん」
彼女は俯いたまま、唇を尖らしそう言った。
「いやだから、誤解だって」
「やっぱりストレスとかさ、色々さ、溜まると男の人って大変なんでしょ?」
「大丈夫。どっちも溜まって無いよ」
「本当?」
「本当」
「……もう安定期だから、優しくなら良いんだよ?」
枝里子は顔を上げると、妖艶な目で俺を見つめそう言った。
思わず鼓動が高鳴る。
「……今は身体を大事にしなくちゃ」
本当は抱きたいと思った。
我が子を孕んだ枝里子の裸体は、神々しいまでに魅力的で、
神聖視しているが為に、同時にめちゃくちゃに犯したいとの欲求にも駆られる。
しかしやはり、何より優先すべきは、その中に居る、
二人で守るべき小さな命なのだ。

枝里子も俺の考えがわかっているんだろう。
「ごめんね。変な事言って」
そう言うと、ベッドから腰をあげて、俺の方へ近寄る。
「いや。俺の方こそ。逆に気を使わせちゃったな」
そう俺が言い終わるやいなや、まだ閉じきっていない口に枝里子の唇の感触。

無言で見つめあう。
もう一度キス。
もう一度。

「あなた……ありがとう」
「なにが?」
「別に」
「そっか」

枝里子は頬を染めながらも、唇を突き出し視線を伏せている。
俺はその顎を取り、そして再び唇を交わす。

「ん……あ」
彼女の口から甘い声が漏れた。
「枝里子、愛してる」

その言葉に反応してか、枝里子の目にはうっすら涙が溜まる。
「うん……あたしも」

そう言い残し、彼女は寝室を出た。
(あなた、か。初めて言われたな)
そう思っていると、廊下からはパタパタと早足で歩くスリッパの音と共に、
「あなた……えへへ」
と小さく声が漏れてきた。

俺はその声を聞きながら、ブラウザを閉じる。
続きはまだあるようだが、流石に夜も更けてきた。
折角夜食を作ってもらったんだから、
一応少しは仕事をしておくか。



「あ〜あ。最近外回りばっかでダルいんすよね」
「そう言うなよ。サボりサボりやりゃいいさ」
「おお。次期係長ともあろう方がそんな事言っちゃっていいんすか?」
「別に決まったわけじゃないだろ。それに多少の息抜きは大目に見るさ」
林はその如何にもな体育会系の見た目どおり、
ガサツでデリカシーがないが、
上下関係には厳しく、そして仕事にも真面目だ。
信頼があるからこそ、俺もこんな事が言える。
「笹島なんて絶対サボりまくってますよアイツ」
紙パックのジュースを飲みながら悪態をつく林。
「そんな事ないさ。あいつはあいつで真面目だろ」
「お、噂をすれば、ですね」
林の視線を追うと、そこには自販機の前で思案する笹島の姿があった。
ほんの数秒その場に立ち止まっただけで、
女子社員が数名彼の周りを群がる。
それを見て、また林が顔をしかめた。
「けっ。あんな優男のどこがいいんだか」
俺は笑いながら林の肩を叩く。
「まぁまぁ」
「そういや主任。あの件はどうだったんですか?」
「あの件?」
「いやいやいや。島崎に友達紹介してもらうって……」
「あ、ああ。そうだったな。そうそう。駄目だったよ。
 お前の予想通り、『残業してろ』って言われたよ」
林は俺の言葉に大きく肩を落とし、
「そ……そうですか」とうな垂れた。
「な、なんだよ。どうせ無理って言ってたのお前だろ?
 なんでそんな凹むんだよ……」
「いや……一応少しは期待してたんで……
 ていうか島崎って昔から俺には厳しいんですよね……」
「そんな事ないって」
「主任は俺らに対する島崎を見たことないからそう言えるんですって。
 こんな言い方あれですけど、あいつって女のくせに仕事バリバリ出来たじゃないですか?
 俺いっつも怒られてたんですから。
 すんげえ冷たい目で。
 怖かったな〜マジで」
「ははは」
「いや、ははは、じゃないですってマジで」
そう抗議する林の背後から、笹島が近づいてくるのが見えた。 
その足取りは、明らかに俺達の方へ向かっている。
どうしても、あの小説のことを思い出してしまう。
僅かな動悸。
嫌な汗が背中を流れる。
(馬鹿馬鹿しい。ただの元彼じゃないか。
 むしろ俺が優越感に浸ってもいいくらいだ)
林もその足音に気づき、後ろを振り向き、
「あ?何だよ」と凄む。
笹島は、そんな林を気に留める様子もなく、
俺の方をじっと見つめ、
「主任。すいませんけど、こいつちょっと借りて良いですか?」
と、林を指差しながらそう言った。
「お、おう」
「ちっ、なんだよ一体」
そう悪態をつきながらも、笹島と一緒に休憩所を出て行く林。
その二人の背中を見送りながら、
俺は大きく息を吐いた。

枝里子が昔愛していた男。
それがこんな身近にいる。
笹島と枝里子が過ごした蜜月の時間を想像すると、
どうしようもなく嫉妬してしまう。
両手で顔を覆って、
「情け無いな……俺は」
と一人ごちる。
夫として、父親として、先輩として、色々と失格だ。



「おかえり〜」
いつもと変わらない枝里子の笑顔と、
そして今か今かと生まれ落ちることを望むその大きく膨らんだお腹だけが、
俺の心を癒してくれる。

サラリと伸びた黒髪は珍しく後ろで結っている。
ただ髪型を変えただけで、俺の胸は高鳴った。
「可愛いな」
ついつい本音が漏れてしまう。
「え?ああ、これ?えへへ。本当はバッサリ切っちゃおうかと思ったんだけどね」
「気分転換?」
「ううん。子供産まれるとさ、短い方がいいのかなって」
「そっか。うん。いいんじゃないかな」
「ありがと」
枝里子ははにかみながら、俺の首に腕を回し、そして唇を合わしてくる。
その大きいお腹が俺のお腹にあたる。
枝里子と向かい合いながら、それを撫でた。
「今日も元気だったか?」
お腹に向かってそう尋ねると、
中からノックするような振動が伝わってくる。
俺と枝里子は、顔を見合わせ微笑むと、もう一度キスをした。

そして今夜も、仕事と嘘をつき、一人寝室で笹島のHPを閲覧する。
ここまできたら、最後まで見なければいけないだろう。
開き直りにも似たその境地で、俺はマウスをクリックしていく。



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第四話



話は僕とエリコが別れる数ヶ月ほど前に遡る。
エリコはそうでもなかったようだが、
僕はかなりの倦怠期に陥っていた。
どれだけエリコが内面、そして外面で魅力的な女性とはいえ、
それこそ四十六時中一緒に居れば、
多少は飽きがきてしまうのは仕方がない話だ。
端的に言うと、もう別れても良いな、と思い始めたのだ。

そんな折、都合の良い話が舞い降りる。

僕とエリコの交際は基本的に秘密だったけれど、
それを知っている知人が一人だけいた。

彼もエリコのことを知っていて、
そしてエリコを魅力的だと普段から口にしていた。

僕は、彼にエリコを抱かせてあげようと考えた。

ただ無償でというのは勿体無い気がしたので、
端金だが、2万円で提案すると、
彼は二つ返事でそれを了承した。

ただエリコがスワッピングや複数プレイに、
素直にOKを出すとは思えなかったので、
少々強引な手を使った。
それはそれで、ゲーム感覚で楽しかったのだ。

予想通りエリコは僕の申し出を頑なに却下した。
眉間に人差し指をあて、
怒りとも呆れとも取れない声で低く唸っていた彼女を、
今でもはっきりと覚えている。
しかし、僕がエリコとの交際に対して、
マンネリを感じていると説得をすると、
徐々にエリコの表情は変わっていった。

納得が出来るわけではなかったが、
僕に飽きられるという危機感を抱いたのだろう。
エリコは、条件つきでOKを出した。

その条件とは、僕とエリコのセックスを、
その知人に見てもらうだけ。
というものだった。
それ以上のことはしたくない。
エリコはその意思表示を頑なに僕に示した。

僕はとりあえずそれで了承した。
それでもなんとかなると思ったから。

エリコの男性経験はひどく浅く、
しかし性に対して興味は有るのに、
それを表に出す事ははしたない事だと強く思っている節があった。
その上、彼女は強い被虐嗜好を持っていた為、
背徳感による性的興奮は、人並み以上に感じるのではないかと確信していた。
一度入り口まで連れて行ってあげれば、
あとは坂道を転がる雪だるまのように増幅していくだろうと。

やがてその当日を迎えた。
最初から第三者が居るのは嫌だというエリコの不安を聞き入れ、
あくまで途中からこっそりと、
鍵を開けておいた玄関から入ってもらい、
扉の隙間からでも覗いてもらうという手はずになっていた。

そして僕は、どこかそわそわしているエリコを、いつものように抱いた。
エリコはずっとキョロキョロと落ち着きが無かったので、
タオルをそんな彼女の顔に巻いて目隠しをした。

するとやはりエリコはそっちの気があるのか、
何時、誰かに覗かれ始めるのかわからない、
という特殊な状況に興奮しだしたようで、
その濡れ方は、明らかにいつもより激しかった。

しかしその反面、やはり第三者に自身の痴態を見せるのが恥ずかしいのか、
やたらと手で胸を隠したり、声を我慢している様子も伺えた。

そしてついに、僕の携帯に、第三者が家の前まで到着したことを、
知らせるメールが入った。
『目隠しをさせているから、部屋の中まで入ってきていいよ』と返信。

やがて玄関が空く音。
その瞬間
「……やだぁ」と囁くエリコ。
しかしその声に反して、きゅうっと僕の性器を締め付ける彼女の膣。
そしてすぐに、部屋の扉を開ける音。
「え?え?」
エリコの慌てふためく声。
「どうせ目隠ししてんだからいいだろ?」
「や、やだよそんなの!ちょ……あっあっ……んっ……くぅっ」

その時は、バックで挿入していたため、
抗議するエリコを制するように激しいピストンを開始。
彼女はとりあえず声を我慢することを優先した。

「ちょ……っとぉ、俊君……やだ……恥ずかしい……よ」
「大丈夫、綺麗だよ」
奥の方をぐりぐりと突きながら、耳元でそう呟いてやる。
「俊……君…………んっ、はぁ……ぁっ……くっ」

エリコは満更でもなさそうに頬を染め上げ、
そして彼女の膣内の圧度は、ますます高まっていった。
その日の覗きプレイは、そのまま穏便に終わると思われた。
そう、その第三者がうっかり喋ってしまうまでは。

エリコは僕の知人であるというその第三者が、
誰であるかは知らなかった。
知ろうともしなかったのだ。
まさか共通の知人であるとは思ってもみなかったのだろう。

「すげえ。島崎すげえエロイ」」

その声に、嬌声を我慢していたエリコがはっと顔を上げる。
「え?……その声、え?やだ…………林君?」

僕の知人とは、エリコとも同僚で、同期の林だった。
大卒の僕とは同い年。
高卒のエリコより4つ上ということになる。
イガグリのような頭に顔、そして身体。
ずんぐりむっくりとした背丈だが、
学生時代は柔道に打ち込んでいたためか、
まるでプロレスラーのような固太り体型。
彼の生まれなど知らないが、まさに九州男児といった風体の男だ。
がさつで粗暴で前時代的。
頭も良いとは言い難い。
しかし不思議と僕は、彼のことが嫌いではなかった。
上辺だけのおべんちゃらを使って、
薄気味悪い笑顔を浮かべるだけの他の会社の人間よりは、
よほど清清しい人間だ。

「あ、悪い」
「お前……喋るなって言っただろ」
「ちょ、ちょっと……本当に林君なの?……あっ、んっ……」
片手を上げて謝るジェスチャーを示す林を睨みながら、
ゆっくりとそのまま腰を振る。
まぁどちらにせよ、その知人が林だということは、
ばらさないわけにもいかないので、内心はどうでも良かったのだが。
そもそも、このプレイを始めても、
エリコが知人の詳細を僕に尋ねなかったのがイレギュラーだった。
『信頼できる知人だから』
僕は彼女にそう言っただけだった。
彼女は、よほど僕のことを信頼していたらしい。

「いや、しかし島崎って結構乳も尻もあるんだな。
 ただの痩せっぽちかと思ってたぜ」
「なっ!?何言って……あっ、んっ……ちょっと……俊君」
エリコは自分の身体を隠そうと上半身を捻るが、
目隠しをされている上に、バックの体勢なのでそれも難しく、
ただ僕の緩やかな、しかし定期的なピストンを受けるしかなかった。

「んっ、んっ、ふっ……くぅ……んっ…はぁ」
「なんだよ島崎。声我慢してんのかぁ?いつも通りの聞かせてくれよ」
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる林。
この状況でマイペースでいられるのは、
素直に驚嘆に値する。
「くぅっ…んっ、はぁっ…あっ……う…るさい……見ない……でよ……あんっ」
「あんっ、だってよ。へっへ。お前も女なんだな」
「ううぅ……あ、あとで……んぅっ……おぼえてなさい……やぁっ…俊君待って」
「俊君ねぇ。可愛いな島崎は。いつもそんななら良いんだけどな」

僕はそんな二人のやり取りを眺めながらも、
ただただ機械的に腰を振り続けた。

それは怒りからなのか、
それとも被虐嗜好からくる性的興奮なのか、
林にからかわれるエリコの膣は、
未だかつてないほどに僕の性器を締め上げた。

「くぅ、ふっ……あっ、あんっ……ね……ねえ俊君……やめよ、ね?」
エリコの悔しそうな声とは裏腹に、
彼女の愛液は膝まで垂れるまでに溢れている。
おそらくは、彼女自身がそれをわかっているからこそ、
そんな自分を受け入れたくないという葛藤もあるのだろう。

ふと林を見ると、いつの間にかズボンを脱いでいた。
ボクサーパンツは、もうはちきれんばかりにテントを作っていた。
視覚を奪われていたエリコは、
脱衣の音を敏感に察したのか、
「ちょっと!…んっ…あんた…………何してん……の?」
「うるせえな。そのままよがってろよ」
林はそう言うと、そのボクサーパンツを脱ぎ捨てる。

彼のいきり立ったそれは、まさに彼の分身だった。
背丈はそれほどでもないものの、
根元からとにかく太く、
破裂しそうなくらいに血管が浮き出て、
岩のように硬いであろうことが容易に想像が出来る、
天を突くかのように反りあがっていた。

勿論僕にそんなケは一切無いが、
それを目にした瞬間、つい生唾を飲み込んでしまう。
そんな見事な逸物だった。

僕はエリコを奥を堪能しつつも、
そのいきり立ったモノを揺らしながら、
エリコに近づく林から目が離せなかった。

「よがってなんか……ないわよ!あっ……え?なに?きゃっ!」
気丈にも言い返すエリコの手を取った林は、
それを自分のそれにあてがった。
エリコは見ずともわかったのだろう、
瞬間的に払いのけるも、林は構わずその手を再び取り、
そして同じようにまたあてがおうととした。

「エリコ。触ってあげて」
腰を振りながら、そう言う。
「……えぇ……やだ…やだよ……」
「お願い。エリコ」

彼女は諦めたように、そっと林を握った。
「やっ、やぁっ何これ!」
明らかに僕のとは違うその手触りに、
一瞬手を離しそうになるが、
それでも好奇心か、それとも本能か、
エリコの手は、僕や林に促されることもなく、
自らの意思で再びそれを握った。

「どうだ?あん?」
「んっんっ……なに…が?」
「俺のちんこだよ」
「べ……別に……く」

そう言いながらも、
エリコの膣内は、
林のそれを握った瞬間から、
奥に入った僕を、
雑巾のように断続的に捻り上げていた。

ぎゅう、ぎゅう。

林のそれを握りながら、エリコは、
それと同じモノを僕に求めていたんだろう。

「ご開帳っと」
林はそう言うと、おもむろにエリコの目隠しをとった。
エリコは目の前のそれを見るなり、
「や……やだぁ……」と呻き、
しかし目を逸らせないようで、
僕のピストンにより嬌声も忘れ、
じっとそれを見つめていた。
目隠しを取った瞬間、
エリコの中が、より一層僕を締め上げたのは、
言うまでもない。
後ろからでも、エリコの耳が真っ赤になったのは明確に見て取れた。
それは単純に、恥ずかしさからなのか、
それとも、また別の性的興奮が彼女を襲ったのかはわからない。

目隠しが取れた後も、エリコは林のそれを離すことはせず、
むしろその硬さを調べるように、
軽く揉みしだくように握っていた。

僕は相変わらず、ゆっくりと腰を振りながら、エリコに問いただした。
「どう?」
「……どうって?なにが?」
「林の。おっきくない?」
「べ、べつに……んっ……わかんない」
「ちょっと舐めてあげてよ」
「え?……やだ……よ」
「ちょっとでいいから。先っぽにちゅって感じで」

林はそんな僕達の会話を聞きながら、ニヤニヤとエリコを見下ろしていた。
エリコが顔を上げると、そんな林と目があったのだろう。
「……あっ……んっ……むかつく……」
と林のそれから手を離し、そしてその手で彼の太ももを軽く叩くと、
素早く首をにゅっと伸ばし、唇を突き出し、
そして林の性器の先端に、ちゅっ、と口付けをした。

その光景は、僕に未知の興奮を与えてくれた。
エリコに執着など無かったはずなのに、
嫉妬にかられた僕の性器はエリコのなかで膨張した。
エリコもそれがわかったのだろう。
彼女は僕を一度振り返り、
そして今度は煽るように、両手はベッドに着いたまま、
首だけで何度か、ちゅっちゅっちゅっ、と林のそれに連続で口付けした。
する度に首を捻り、角度を変え、
カリだったり裏筋に、
ついばむように唇をつきだし愛撫した。
そしてその後、再度僕の様子を伺うように振り返った。

僕はたまらなくなり、エリコの奥で痛いくらいに勃起した性器で
今までの穏やかなピストンとは一転させ、
激しく彼女を突いた。

エリコは肘をつき、顔を伏せた。
「あっあっあっ!やだ!俊君、すごい!なんで!?……こんなの初めて」
「エリコ!エリコ!」
「んっ!やぁっ!俊君、待って!待って!やだ、恥ずかしい……あっあっあっあっ!」
林は相変わらず顔をニヤつかせ、
口を食いしばるエリコを見下ろしていた。
「お、島崎良い声出てきたじゃん」
「なっ!?……んっ、あんっ……う、うるさい馬鹿!
 み、見ないでよ……あっあっあっああ!俊君待って!」

僕の顔は真っ赤になっていただろう。
文字通り飽きるほど抱いた彼女を、
もう一度自分のものにしたいと、
とにかく無我夢中で犯した。
でも途中でなんだか物足りなくなり、
再度ピストンを緩め、エリコに命令する。

「エリコ、しゃぶって」
「はぁ、はぁ……うん……いいよ」
そう言いながら、腰を捻ろうとする彼女を制する。
「違う、僕じゃない」
「え?……そんな……やだぁ」
「お願い。な?わかるだろ?」
いつもより、硬く、そして強く犯しているだろ?
なんでかわかってるだろ?
もっともっと、エリコのことを、激しく犯してあげるよ。
言外にそんな意思をこめ、エリコに懇願する。
しかし彼女は黙って首を振るだけだった。
それでも僕は執拗に、彼女の奥をゆっくりと責めたてた。
林は林で腰をエリコに押し付けるように近づける。

エリコの肌はいつになく汗ばみ、
そして鼻から漏れる息も、興奮を隠せない様子だった。

やがて、彼女は、諦めたかのように、
「ゴム……してよ……」と呟いた。
林は「はっ」と小さく鼻で笑うと、
傍に置いてあったゴムを手に取ると、
それをエリコに渡し、
「じゃ、よろしく」と言い放った。

その時、エリコがどんな表情をしていたのかはわからない。
バックで僕に挿入されながら、ただ無言で林にゴムを被せていた。
その作業を終えると、一度首だけで僕のほうを振り返り、
「俊君……」と力なく呟いた。
僕は返事の代わりに一度大きく突いた。

エリコは一度林の先端にキスをすると、
ゆっくりと大きく口を開いて、そして咥えた。
そしてそのままゆっくりと首を前後させると、
「うはっ。島崎口ちっちゃいけど、結構しゃぶれるんじゃん」
と林が嬉しそうにエリコの頭に手を置いた。

彼女は本来、フェラ中に頭を撫でられるのが好きだ。
しかし相手が相手なうえ、僕の目の前ということもあり、
林のその行動を、鬱陶しそうに首を振って払いのけた。

林に対するゴム越しのフェラチオは、
音もとくに無い淡白なものだったが、
目の前で自分のモノだと思っていた女が、
他の男のを咥えるという光景は、
かつてないほどの興奮を僕に与えた。

僕の性器は再び痛いほどまでに張り詰め、
そしてエリコをめちゃくちゃに犯したいという願望も再燃した。

僕はあっという間に果ててしまった。

エリコはゴム越しに僕の射精を感じながら、
律儀にもフェラチオを続けた。
僕は収縮するエリコの膣に射精を促されながら、
エリコの顎先から多量の唾液がベッドに落ちていくのを、
恍惚の表情で眺めていた。
いつの間にか、エリコの頭には林の手の平が乗っており、
エリコはそれを嫌がるでもなく、
林も愛おしそうに、彼女の前後する頭を撫でていた。

僕は彼女の中から僕自身を引き抜くと、
「エリコ」と声をかけた。
いつも通り、フェラで掃除してくれ、という意味合いの呼び掛けだった。
エリコはもっと林のをしゃぶっていたかったのか、
一瞬反応が遅れて
「あ……うん」と返事をすると、
林から口を離し、そして身を翻した。

エリコが僕の精液で汚れた性器を、
口で掃除してもらっている間、
エリコには腰を突き上げさせ、
彼女の性器を林に見せ付けてやった。

「島崎、お前のまんこすげえピンクだな」
エリコはそんな言葉に眉をしかめて無視を決め込んだ。
恥辱にまみれた、そそられる表情だった。

僕は林に向かって顎を振った。
林はその意図がわかったのか、
エリコの突き出した腰に、
自分の腰を重ね合わせるかのように突き出した。

エリコの膣口は、まだ充分なほどに濡れており、
そしてほぐれていた。
エリコがその感覚に気づく前に、
林のその巨根は、全て彼女の中に納まった。
その瞬間、エリコは歯を食いしばり、そして上体を仰け反らした。

「ひぃっ!……っぐ」
そんな声にならない声をあげるエリコ。
対照的に林は、
「うは、島崎の膣口超せめえ」
と感嘆の声をあげた。

「僕が初めてだからな」
「マジかよ?じゃあ俺が2番目だな」
口端を吊り上げながら、ピストンを開始する林。

「いっ、いっ、ひっ、んっ……うぁ……ああぁ」
エリコは僕の太ももを力一杯握り締めながら、
苦痛に耐えるかのように声をあげた。

既に林のピストンは、エリコの奥深くを、
まるで掘り下げるかのように力強くなっていき、
ぬっちゃ、ぬっちゃ、という音が、部屋に響き渡った。

「ふっ、ふっ、んっ、あっ、あっ、ぐっ、うっ」
エリコのそんな声は、最初は息苦しさと、
困惑による色合いが強かったものの、
それは次第に襲いくるう快感に、
抵抗するものへと変わっていった。

「エリコ、綺麗だよ」
本心からの言葉だった。
僕は彼女の頭を撫でながら、そう言った。

林の毛深くごつごつとした両手は、
それとは全く対照的な、滑らかな肌の、
華奢かつ肉付きのいいエリコの臀部をがっちりと掴み、
「おら!おら!島崎!きっつきつだぜ」
と林に容赦なく責め立てられていた。
「あぐぅっ!んっ!くっ!やっ……あぁん!」
「おら!もっと声出せよ」
「だめっ!だめっ!こんなの……だめ……あっあん!」
林はシミ一つないエリコの臀部を叩くと、
「島崎!お前安産型だな、おい!?」
と辱めを与えるように言った。

元スポーツマンの林のピストンは、
僕のものとは明確に異質で、
それは削岩機のように、エリコを突きたてた。
エリコの細身の身体が、壊れてしまうのではないかと、
危惧するくらいの激しさで、
バシッバシッバシッ!と断続的に
エリコの臀部から音が叩き出されていた。

「ひっひぐぅ!ひっ!ひっ!ひっ!あっ!いっ!あっ!」
「女のくせに職場で偉そうなんだよ!俺のちんこでアンアン喘いでろ!」
林の八つ当たりのような罵倒も、もはやエリコの耳には届いていない。
彼女の手は僕の太ももを縋るように掴み、
そして口は苦痛に耐えるかのようにシーツを噛んでいた。

やがて、エリコの身体に異変が起こった。
まるでサウナの中のように汗が噴出し、
僕の太ももを引き裂かんばかりの力で爪を立てた。
林も「うぉ!?」と驚きの表情を浮かべ、
慌てて、エリコから自身を引き抜いた。
後で聞いたら、本気で痛みを感じるくらい、
締め上げられたとのこと。

そしてエリコは、腰を林の方へ突き上げたまま、
盛大に潮を吹いた。
それは失禁かと見紛うほどの、勢いと量だった。
ベッドの上には瞬く間にシミが広がっていった。

エリコは、上体を突っ伏しながらも、
泣きそうな表情で僕を見上げながら、
ぴゅっぴゅっと、断続的に潮吹きを続けた。
僕はそんなエリコと見つめあいながら、
「愛してるよ。エリコ」と漏らした。

彼女に対してその言葉を投げかけたのは、
この時が最初で最後だ。

エリコの身体は、少し心配になってしまうほどに痙攣を続け、
その間、僕と林は、その様子を見守ることしかできなかった。

十数秒後、ようやくエリコは肩を上下させながらも、ゆっくりと上体を起こした。
「もっと可愛がってやるぜ」
林がそう言いながら背後から抱きついた刹那、
エリコの裏拳が林の顔面に直撃した。
といっても、ただでさえ華奢のエリコの、
痙攣直後の力が入っていないそれは、
林にとってはまさに蚊に刺された程度のもので、
「まだまだ元気じゃん」
と笑顔でエリコの胸に手を伸ばした。

しかしエリコは、ゆっくりと身を翻し、そして枕をやはり林の顔面に投げた。
じゃれているのかと、林もまだまだ笑顔を浮かべていたが、
エリコは全裸のまま立ち上がると、置時計や携帯なども、
無言のまま次々と林に投げつけて、
「わ、わ、わ、ちょ、島崎、危ないって。おい」
「うっさいうっさいうっさい!帰って!帰ってよ!」
とお互い必死の形相を浮かべた。

林が逃げるように玄関から帰っていくをの見届けると、
エリコの怒りの矛先は僕に向かった。
といっても、半べそをかいた目で、
僕の胸に飛び込み、
「ひどいよ俊君……」と呟いただけだったが。

「ごめんなエリコ。でもすごい綺麗だった」
「やだ」
「本当だって。可愛くて、綺麗で、
 ますますエリコのことが好きになった」
ちなみに、好きと言ったのも、この時が最初で最後だ。

エリコはその言葉に困惑の表情を浮かべ、
でも結局は満更でもなかったそうで、
「馬鹿」とだけ呟くと、
シーツを剥ぎ取り、洗濯機がある浴室で走っていった。

その晩、いつも通り二人寄り添いながら寝ると、
「それにしても、林のセックス凄かったな」
と僕は話を蒸し返した。
エリコは
「知らない。やだやだやだやだ」
と耳を塞いでそっぽを向いてしまった。

そして僕が改めてエリコの魅力に気づいたのは次の日のことだ。
あんな事があったためか、
いつもなら就業中は口煩いエリコにあまり近づかない林は、
いやらしい笑みを浮かべてちょっかいを出すように、
やたらとエリコに職場で話しかけていた。

しかしエリコは、そんな林が期待するようなリアクションを一切見せなかった。
むしろ普段よりも事務的かつ冷淡な表情や口調で、
林を迎え撃つように毅然としていた。

「林君!この報告書のここ!間違ってる!何回言わせんの!?」
「林君!会議資料できた!?まだなの!?どっち!?」
「林君!暇ならトイレ掃除でもしてたら?ウロウロしない!」

「な、なんだよ畜生……」
思惑が外れ、逃げるように外回りにいく林の後姿を見ながら、
鼻をふんと鳴らすエリコは、やはり魅力的だった。



「んっ、んっ、んっ、あっ、あんっ、んっ」
その日の晩。
また同じ手口でエリコの膣には林の巨根が挿入された。
僕の腰に縋りついて、犬の交尾のように林に突かれ、
そして犬のように声を上げるエリコは、
やはりどうしようもないほど魅力的だった。

エリコは渋々ながらも、2度目のこのプレイを受け入れた。
また僕に、愛の言葉を囁いてもらえると期待していたのだろう。
そして怖いものみたさで、林の獣のようなセックスを、
また経験したかったというのもあったのかもしれない。

「おらぁ!あんま男舐めんなよ!」
そう罵りながら、エリコの腰を鷲掴みし、
やはり八つ当たりのように自身の腰を、
エリコの臀部に激しく打ち付ける林。
「はっ、あっ、あっ、ああっ……べ、べつに……舐めてなんか……」
そう反論するエリコの声は、食いしばる歯から漏れる、
小さく弱いものだった。
「うっせえ!ただ俺のちんこでよがってりゃいいんだよ!」
「……んっ、あっ、よがっ…て、なんかな……あっ、あんっ、んっ、あっ」

2度目ということもあり、エリコも昨晩よりはまだ余裕があるようだった。
少なくとも、返事をする程度のものだが。
既に射精済みだった僕は、少しその光景に飽きてしまい、
その場を離れてビールでも飲みに行こうかと腰を上げる。

「え?あっ、え?俊君?……ふっ、くっ、待って……やぁっ、あん」
そう懇願するエリコの頭を撫で、
「ちょっとシャワー行って来る」とだけ言い残し、
林にバックで突かれながら、僕の名を呼ぶエリコを寝室に残し、
僕はリビングに移った。
林を振りほどいて、僕を追うほどの余裕は無かったのだろう。
彼女の腰は、犯されながらも生まれたての子馬のように震えていたし、
口元からは時折、彼女自身も気づかないうちに涎が垂れていた。

ゆっくりと音を立てないように、冷蔵庫からビールを取り出す。
それを飲みながら耳を澄ますと、
ベッドが激しく軋む音と共に、
二人の声が聞こえてきた。
といっても、一方の楽しそうな声とは対照的に、
もう片方の声は、余裕のない、嬌声交じりの、
悔しそうなかすれた声だったが。

「あっ、んっ、くっ……んっんっんっ……っく」
「お前って本当締まり良いのな」
「う、うるさい……あっ、ふぁ………はっ、はっ」
「マジで良いケツしてるぜ島崎……おら!おら!」
「いっ!あっ!……んっあっ……ああっ……あああああっ!」
「なんだよまたイったのかよ。島崎感度良すぎだぜ」
「……う、あぁ…………あ……あ」
「さっきから黙ってイキすぎなんだよ。
 イク時はちゃんとイクって言わなきゃよ。
 ほれ、次は正常位でやんぞ」
「ま……待って……まだ…まだ……あっ、ああ……ああああ」
「おら!おら!へへ、島崎ぃ、おっぱい揺れてるぜ。結構あんだなお前」
「…………ひっ、やっ、やっ、はぅっ!」
「お前いつまで声我慢してんだよ?俺にも聞かせろよ」
「だ、誰が……あっ、ひっ……あっあんたなんかに……あっ…くっ」
「ったく、そんだけ感じといてよくそんな生意気な口きけるな」
「ちょ、やっやめてよ……キスは、だめだって……いっあっ……」
「いいじゃねえか、笹島居ねえんだし」
「そんな問題じゃ……あっ、んっ」

それからしばらくは、ただベッドの軋む音と、
エリコが嬌声を食いしばる声だけが聞こえてきた。
僕は、僕に操を立てて我慢をしている彼女が気の毒になり、
忍び足で立ち上がると、浴室の扉を開けて、
寝室の二人にも聞こえるように、
シャワーの栓を全開にして出した。

すると林の声。
「な?な?笹島シャワー行ってるって。な?」
「んっ、くっ、ふっ……あっ、あっ、んっ」

ベッドの軋む音が、止んだ。
そして
「ん……ちゅ」という音。
その直後、
「島崎の唇、薄いのに柔らかいんだな」
「…………知らない……んっ……ちゅ」

再度少しづつ軋みだすベッド。
「島崎、舌出せって、そうそう…………うは、お前のベロ気持ち良い」
「…ちゅっ……いちいち……んっ、ふぁ……言わなくていいから」
「おら、その調子で、声聞かせろよ」
「やぁ、だぁ……んん……ちゅっ……ちゅっ」
「お前って本当強情なのな?こんな感じまくってんのに……おら!」
「んっ!やぁっ!……感じて……ないからぁ……あっ!あんっ!」
「さっきからずっとイキっぱなしじゃねえか」
「イってない…………あっそこ…だめ」
「まぁいいけど。じゃあ俺もイカせてもらうぜ」

林がそう言うと、ベッドの軋みは、再度激しくなり、
「いっ!いっ!あっ!……ああっ!あああああっ!」
「島崎ぃ!いくぞ!?いくぞ!?」
「ひっ、ひぐっ!いっいっ!あっ……だめっ!これだめっ!あああああっ」

一際激しい軋み音が鳴り響くと、
それが嘘だったかのような静寂が訪れた。
聞こえてくるのは、嘘のシャワーの水音と、
二人の激しい呼吸音だけ。

そして
「島崎……」
という林の声の後、
また
「んっ、ちゅっ…………んっ……ちゅっちゅっちゅ」
というキスの音が、長く連続で聞こえてきた。

「はぁ、島崎、最高だったぜ」
「…………あっそ」
「なぁ?笹島にやってるみたいに口で掃除してくれよ」
「やだ。無理。絶対嫌」
そしてガタ、とベッドが揺れる音。
エリコが立ち上がったんだろう。
しかしその直後、何かが倒れるような音。
おそらく林が、立ち上がろうとしたエリコを制したんだろう。
「わかった。わかったからよ。ほら、じゃあキスだけ」
「な、なんであんたと…………んん…ちゅっ…んっ、ちゅ」

何だかんだと言いながら、林と唇を重ねる音が聞きながら、
もうエリコの身体には、林の味が刻み込まれたのだな、
と人事のように思いながら、シャワーに入った。

数十秒後、エリコは浴室に飛び込んできた。
「馬鹿ぁ……」と叱られた子犬のような目で僕を見つめながら。
その晩、彼女は何度も僕にキスを求めてきた。
唇が腫れあがってしまうのではないかと思えるほどに。

「もしかして林とキスした?」
僕のその問いに顔を伏せると彼女は、
「……ごめんなさい。でも無理矢理だったから。
 本当だよ?ずっと俊君のこと考えてたから」
と手をばたばたさせながら、そう素直に謝罪した。

その後も、何度も彼女と唇を交わしながら、
どうこの女を捨てようか考えていた。
林に劣等感を抱くなどありえないけど、
わずかな敗北感を感じたのは事実だっし、
エリコの身体が、僕よりも林で悦んでいたのは明白だった。
別にそれで彼女の魅力が下がったわけじゃない。
ただ元々、切り時を伺っていた時期だったということ。



「なぁ林。お前エリコ要らないか?」
「あ?」
「だから要らないかって」
「そんなお前犬猫じゃあるまいし」
会社の非常用出口の螺旋階段の踊り場で、
煙草を吸いながらそんな話を持ちかける。

「そろそろ別れようと思ってな」
というよりは、そもそも付き合っているつもりが無かったが。
「やだよお前のお下がりなんてよ」
「僕が言うのもなんだけど、良い女だぞ」
「知ってるよ。多分バックが一番好きなんだろうな。
 ケツ叩きながら突いてやると、きゅっきゅ締めんだよな島崎」
口端を吊り上げ、腰を振るジェスチャーを交える林。
「で?お下がりだから要らないと?」
「……本気で言ってんのかお前?」
「ああ」
「じゃあ遠慮なく。正直あの小生意気な島崎を、
 キャンキャン鳴かせるのってやばいくらい興奮すんだよな」

林は大きく煙を吐きながら、口元を歪ませた。

その日の晩。
いつも通り僕とエリコはお互いを求め合っていた。
林はまだ来ていなかったし、来る予定もエリコに伝えていなかった。

前回以降、彼女は
「ああいうの……もうしたくない……な」
と、弱弱しくもそうアピールを続けてきた。

そしていざ挿入という時、林の来訪を伝えるチャイムが鳴る。
エリコはげんなりとした表情を浮かべていたが、
先程までの執拗な前戯で、身体は充分なほどに火照っていた。
そして林の見ている前で、いざ挿入という時、
僕の携帯が鳴る。
こっそりと、林に鳴らしてもらった。
僕はそれを取ると、部屋を出て、誰かと喋る振りをした。
そして部屋に戻ると、
「ごめんエリコ。ちょっと実家で問題あったみたいだから、
 一回顔出しに行くよ。すぐ戻るから待ってて」
そう言い残し、さっさと服を着て、そして玄関に向かった。
その様子をエリコは、「え?え?」と困惑の表情で見ていたが、
やがて玄関まできて
「じゃああたしも行く」と言った。
「身内の問題だから。大丈夫。大した事じゃない。
 一時間で戻るよ。待ってて。
 なんなら、林と先にしてて良いから」
それだけ早口に捲くし立てると、
何やら抗議めいたエリコの言葉を背中に受け、
僕は用も無い夜の街へと繰り出した。

一時間が経ち、そして「そろそろ戻るね」とメール。
帰ると、既に林の姿は無かった。

エリコは、引きつった顔で何やらモジモジとしていた。
「した?」と尋ねると、一瞬の躊躇いをみせた後、
顔を強張らせたまま、ゆっくりと首を縦に振った。
僕はその頭を撫でながら、
「気持ち良かった?」と尋ねると、
頭が取れてしまいそうな勢いで首を横に振った。

偽りの身内の問題で疲れたから、
今日のところは帰ってほしいとお願いをすると、
エリコはホッとしたような、でも残念そうな様子で帰って行った。

僕は、林にも内緒にしていた、隠し撮りカメラを取り出すと、
早速それを再生した。

僕がエリコを愛撫し、そして林がインターホンを鳴らす。

僕が嘘の用事で、部屋を出て行く。

エリコは部屋に戻ると、急いで服を着た。

「なんだよ?笹島も俺としてて良いって言ってたじゃん」
そんな林の声に、
「うるさい!こっち見ないで」と言いながら、下着を着けるエリコ。
林はそんな彼女を後ろから抱き寄せて、ベッドに座らせる。
「な?良いだろ?」
そう言いながら、エリコの胸を両手で揉む林。
「だめ。だめだめだめだめ」
「なんで?笹島も良いって言ってたじゃん」
「言ってない」
「言ってたろうが」
「ていうか絶対だめ」
「なんでだよ?もう何回もしちゃってんじゃん俺達」
「まだ二回だし。ていうかそういう問題じゃないし」
「どういう問題なんだよ?」
「どうって……俊君居ないのに……駄目だし」
「だからその笹島が良いって言ってたじゃん」

そんなやり取りをしながらも、
林はエリコの身体をまさぐるように愛撫を続けた。

エリコの身体は火照っていた。
その上、林に犯される悦びを、知ってしまっていた。

「絶対……俊君に内緒にしてくれる?」
「ああ。約束するぜ」
林のその言葉に、エリコはゆっくりと振り向き、
そして自ら林に口付けをした。

長いキスだった。
エリコは林の太い太ももに乗りながら、半身で振り返ってキスをして、
そして同時に手で林の性器を扱いていた。
そんなエリコに、林が耳打ちする。
「フェラしてくれよ」
エリコは無言で、するするとベッドに腰掛ける林の前にひざまつき、
そしてゴムを手に取った。
しかし林はその手を制し、
「笹島居ないんだからよ、そのままでしてくれよ」と言った。

エリコは、一瞬躊躇いを見せたが、
一度林の先端にキスをすると、そのまま咥えた。

画面には、エリコの白くしなやかな背中が映っており、
そしてその前に身を投げ出すように座る林の姿。
林の股間は、ちょうどエリコの後頭部で見えない。
しかしエリコの後頭部は、定期的なリズムで上下前後に揺れ、
その度にちゅぱ、ちゅぱ、という音が漏れてきた。
林は恍惚の表情を浮かべ、そんなエリコを見下ろしながら、
頭を撫でていた。

「うあっ、やっぱ島崎、フェラうめーじゃん」
「……あっそ」
冷たく、素っ気ない口調の返事。
「俺のでかいから大変だろ」
「んっ、ちゅぷっ、んむ、ちゅぱっ……ほんと、でかすぎ……」
「島崎はでかい方が好き派?」
「派とかわかんないし」
「でも笹島と比べてどうとかあるっしょ?」
「……しらない……んむっ、ちゅっ、ちゅぱっ、んっ、ちゅぱっ」
「な?もう、いいだろ?」

林がそう言うと、エリコは林のそれに、ゴムを被せた。
林は動かず、そのままの体勢で手を広げ、
エリコに自分の上に乗るよう促した。
彼女はそれに従い、体面座位の形で、林の上に乗る。

林の根元から太いモノは、いとも簡単にエリコの中に飲み込まれていった。
もはや、最初にした時のような圧迫感は無く、
エリコの膣は、林の形を覚えてしまっているようだった。

「あっ……すご」
「何がだよ?」
「う、うるさ……あっあん!」
「笹島居ないんだからよ、声出してイキまくっていいんだぜ?」
「はぁ、はぁ、はぁ…………んっ」
エリコの腕を、自分の首に回させると、
二人の唇はお互いの舌を求め合うかのようにすんなり重なった。
それと同時に、下から突き上げる動き。

「あっ、あっ、あっ、やだっ……それすごい」
「だから何がだよ?な?」
またキス。
エリコは呆れた表情を浮かべ、
「……林君……太すぎ」と呟いた。
林はその言葉に興奮したのか、
突き上げるペースを速める。
「あっ!あっ!あっ!あっ!あんっあ!……だ、だめっ……あっあん!」
エリコの声は、もう我慢を振りほどいた声だった。
いつも僕に聞かせる、いやそれ以上の、甘く、切ない声。
「おらっ!おらっ!どうだ?言え!正直に」
「あっあっあっあん!やだ……聞かないで!あっあっあっ!」
「太いのどうなんだよ?太いちんこ良いか?おい?」
「あんっ!あんっ!あんっ!……わかんない……んっあっあっ!」
「言え!言っちまえ!なあ!?おらおらっ!」
「いっ!あっ!いっ!あっあっあんっあ!……いい……」
「ああ!?」
「気持ち……良い……」
「太いの良いか?」
「太いの……気持ち良い……あっあっあっあっ!」
「ちゃんと言ってみろ。太いちんこ良いって」
「や、やだぁ………あっ!あっ!あっ!あんっ!」

そこで林のピストンが止む。
「おら、言えって」
「ん、もう……やだぁ…………んっ」
エリコからキス。
林のピストンが、少しづつゆっくりと再開する。
それに伴い、二人のキスの激しさが増していく。
やがてピストンは、再びエリコの上体を揺らす激しいものになり、
そしてキスは、お互いの口元を唾液で塗りたくる淫靡なものとなった。

そして林はエリコを抱きかかえたまま、
そのままいとも簡単に立ち上がった。
エリコは蕩けた顔のまま、驚愕の表情を浮かべる。
「え?え?なにこれ?やだ」
「駅弁っつーんだよ」

細身とはいえ、女性にしては結構な長身のエリコを、
まるで赤子のように揺さぶる林。

「あっ!あっ!だめっ!林君!やだすごい」
「初めてか?ああ?」
「う、うん!こんな!すごい!あっ!あっ!ま、待って!」
エリコの切羽詰ったその言葉に、
彼女を腕の中で揺さぶることを止める林。
「なんだよ?」
「……これ、なんか……奥……当たる」
「痛いんか?」
「痛くは……ない……けど」
「じゃあいいだろ」
「あっ!あっ!……でも、なんか…あんっ!…変な感じ
 あんっ!あっ!あっ!んっ!あんっ!」

「だめっ!だめっ!イっちゃう!イっちゃう!」
「いいぞ!ほら!ほらイケ!」
エリコは縋りつくように林の厚い胸板に抱きつき、
そして林の両手は、エリコの臀部を力の限り揉みしだくよう掴んでいた。

「いっいく!いっ!あっ!ああっ!あっ!ああああああああっ!」
その瞬間、エリコの背中がぶるぶると震えた。
余韻を楽しむように、エリコの身体はしばらく小さな痙攣を続けていた。
それが止むと、
「いったか?」と林。
「……ん」と小さく頷き、そして自ら唇を寄せるエリコ。
「いつもそんな素直なら可愛いんだけどな」
「どうせ可愛くないですよ……あっ……だめ……まだ動いちゃ」
「そんなとこも可愛くで好きだけどな」
「はいはい」
「いやマジで。俺島崎のこと好きだぜ」
「……え?冗談でしょ?」
「マジマジ」
「いつ……から?」
「ずっと前からだよ」
「……嘘だぁ」
「別に信じてくれなくていいけど」
「ほんとに?」
「だから言ってんだろ」
「あ……ごめん」
「別に良いよ。謝んなって」
「でも、あたしは林君に嫌われてるかと思った」
「なんでだよ?」
「だって……あたし偉そうだし」
「そこがまた良いんだよな。苛め甲斐あるっていうか」
「苛め……ってもう!」
「な、俺もイキてえ。正常位で良い?」
「ん」

エリコがベッドに寝そべり、そしてその上に林がまたがった。
エリコは、ひっくり返ったカエルのように足を組み抱えられ、
そして林を奥まで受け入れた。

「あっ……ああああっ!」
挿入された瞬間、エリコは足の甲をピンと伸ばした。
「なんだよ。またイったのかよ。早すぎだろ」
「だ、だってぇ……」
「そんな俺のちんこ気に入った?」
「そんなんじゃない……あっんっ」
「島崎はおっきいのが好きなんだな」
「知らないってば!…………あぁっ!」

林はエリコに圧し掛かり、本格的にピストンを開始する。
「おら!おら!おら!」
「あっ!あっ!あんっ!あっ!……すごいっ!あんっ!」
そしてエリコの耳元で、
「好きだ」とか「愛してる」と囁きながら、
彼女を壊してしまいそうなくらいの勢いで腰を振り続けた。
「あっあっあっ!だめ!林君!言わないで!」
「好きなんだから仕方ねえだろ!島崎好きだ」
「あっ!あっ!そんなっ!もうだめ!きちゃう!またきちゃう!」
「いいぜ!俺もだ!一緒だぞ!いいな!?」

エリコの足の指は、グーとパーを何度も繰り返していた。
「いっいく!イっちゃう!……イクイクイク!……林君!ああああああっ!」

エリコは下から飛び跳ねるように林に抱きつき、
そして暫く痙攣を繰り返した。
林もゴム越しとはいえ、
エリコの膣内での射精を堪能しているようで、
しばらく二人は、余韻を堪能するようにつながったまま動かなかった。

やがて二人は、見詰め合ったまま離れた。
そしてどちらからともなくキスを交わす。

林はゴムを外しながら、
「最高だったぜ、島崎」と言うと、
エリコは息を整えながら、
罰が悪そうに頭をかき、
「……ふーん」と素っ気なさそうに言った。

「なぁ。俺のも笹島と同じように綺麗してくれよ」
そう言い、エリコの頭に手を置く林。
エリコは、一瞬間を置いた後、
「ごめん……それは……」と断った。
林は特に気を悪くした様子もなく、
「そっか」と言うと、
「気持ちよかったか?」とエリコに尋ねた。
そう聞かれた本人は、
「……別に」とだけ言い残すと、
シーツを頭から被り、布団の中に潜り込んだ。
林はそんなエリコを苦笑いを浮かべながら、
「ほんと素直じゃねー奴」と言いながら、
シーツ越しにその身体を撫でていた。

「じゃあ俺シャワー浴びてくるわ。一緒に来るか?」
「行かない」
シーツに包ったままの返事。

林が寝室を出て、そしてやがてシャワーの音が漏れ聞こえてくる。
そんな折、シーツの中から
「はぁ……」と大きな溜息が聞こえてきた。

映像はそこで終わっていた。
エリコは林に内緒にしといて、と頼んだわりには、
あっさりと白状してしまった。
結局僕には嘘がつけないのだろう。

僕が少々驚いたのは、翌日林にその件で話しかけると、
エリコとの約束を守り、
「結局やらなかった」と言い切ったことだ。
僕は隠しカメラのことを伝えると、
彼は不貞腐れたかのようにそっぽを向いてしまった。
別に悪い気はしなかった。
意外と律儀な奴なんだな、と見直しすらした。

「お前ってエリコが好きだったんだな」
からかう様にそう言う。
すると林は、
「いや?」とあっけらかんと返事をした。
「だから隠し撮りしたって言っただろ?照れるなよ」
「いやあんなもんノリに決まってるだろ。
 お前も男ならわかんだろ?
 まぁそりゃ好きっちゃ好きだぜ。
 イイ女だし、苛め甲斐あるし」
林の言葉に、まぁそんなものかと納得した。

それから一週間ほど、仕事が忙しいこともあって、
林との複数プレイは行われなかった。

そして漸く仕事に一段落がつくと、
僕は林を誘った。

「ラブホで二人っきりでやってこいよ」
「いや無理だろ」
「ラブホで三人でしようって持ちかけるからさ、
 それで僕だけ遅れるから、お前らだけで楽しめばいいさ」
「遅れるっていうか、来なくていいぞ」
「わかったよ」

久しぶりのその提案に、エリコはやはり顔を歪めて難色を示した。
「やっぱり、もうそういうのしたくないな」
寂しそうにそう言うエリコを、
「たまには刺激無いとさ、マンネリしちゃうだろ?
 これからもずっと一緒にやってきたいしさ」
となだめるように定型文で説得した。

当日。
計画通り、エリコと林を先に行かせ、
僕は他のセックスフレンドと楽しんでいた。
折角だから、エリコ達がいる隣の部屋でしてやろうかとも思ったが、
万が一鉢合わせになってもややこしいだけなので止めた。

エリコからは、何度も「まだ?」とメールや電話が入ってきた。
僕は「また実家の方で、急な問題が発生したから」と言って、
セックスフレンドにフェラチオをさせながら対応をしていた。
「先に林としといて良いよ」と言うと、
「……えぇ」と辛そうなエリコの声。

結局その晩は、僕は実家の方に泊るという事にして、
エリコ達の下へは行かなかった。

真夜中にエリコからは、「ごめんなさい。一回だけ、しちゃった」とメール。
「良いよ。気にしないで。こっちこそごめん」と返信。

林からは一切の報告が無かった。
その代わり、後日、林からビデオを受け取る。
こっそりと、隠し撮りをしてもらったのだ。

映像は、ホテルのフロントから始まっていた。
といっても、バッグに入っている状態だったので、
映像そのものは真っ暗で、音声しか聞こえてこなかったが。

「どの部屋が良い?」
という林の問い掛けに、
「っ!どこでもいいから早くしてっ!」
とエリコの焦った様子の小声。
「なんでだよ。そんな焦んなよ」
「だって……こんなとこ誰かに見られたら……」
「大丈夫だっての。ったく。こういう時は肝っ玉小せえんだな」
「何よそれ!?っていうか林君ががさつすぎるんでしょ!?」
「わかったわかったよ。じゃあここな。普通のやつ」
「どこでも良いってもう」

数秒後、"チン!"という音の後、
機械の作動音がうっすらと聞こえる。
おそらくはエレベーター内。

「笹島とはこういうとこよく来んのか?」
「……言う必要有る?」
「ただの世間話だろ」
「あんまりない、かな」
「ふーん。まぁ半同棲みたいな感じらしいしな」
「林君は?よく来るの?似合いそうだよね。こういういかがわしいとこ」
エリコのそんなからかうような口調。
「うるせえな。わりと久しぶりだよ」
「ふーん」

僕はエリコと、ラブホテルになんか行った事がない。
そしてエリコは、僕と林しか男性経験が無かったので、
『あんまりない』は嘘だった。
最初のはずだったのだ。
どうしてそんな嘘をついたのかは理解に苦しむが、
おそらくは、初めてが僕じゃないことに罪悪感を抱いたのだろう。

部屋に入ると、林が上手くセッティングをしたようで、
ファスナーが空く音と共に、画面の半分くらいには明るさが差した。
ベッドの全容がわかるには、充分な撮影範囲だった。

「はーぁっ」
少し大袈裟とも言える溜息をつきながら、
エリコがベッドに腰掛ける。
「なんだよ天下の島崎ともあろうお方が」
「何よそれ?やめてよね」
「悩みがあんなら相談乗るぜ?……っと」
そう言いながら、エリコを後ろから抱きしめるようにベッドに腰掛ける林。
それにもたれながら「……別に……ていうか」と言いよどむエリコ。
流石に、林と触れ合うことにはもう慣れたきたような、
そんな自然な佇まいだった。
「あ?」
「俊君……なんでこんな事させるんだろ……って」
「あいつは何て言ってんだ?」
「何てって、だから、マンネリしてるからって……」
「ふん。まぁわからんでもないけどな。ただ……」
「ただ?」
「俺だったら島崎にそんな事は絶対させないけどな」
「……なんで?」
「そりゃ惚れた女が他の男としてるなんて嫌に決まってんだろ」
「……ふーん」
「笹島、浮気してんじゃね?」
「……そんな事ない……って言いたいけどね」
「問い詰めれば良いじゃねえか」

エリコは、「ふーっ」っと多きく息を吐くと、言葉は紡いだ。
「あたしね、初めてなんだ。俊君が。付き合うのってね。
 だから、正直わかんないんだ。色々と。
 どうしたら男の人が喜んでくれるとか。
 だから、きっとあたしにも問題はあると思うし」
「だから浮気されたりとか、他の男とさせられても仕方ないってか?」
「どうだろね」
「そんなわけねえだろ。馬鹿かお前は」
「そうだね。馬鹿……だよね」
「俺だったら、絶対大事にしてやるぜ?世界で一番大切にな」
「……馬鹿」
エリコはそう呟くと、首を横に捻り、
そして林とキスを交わした。

エリコが、林の膝の上に腰を下ろし、
その細く、白い腕で、林のネクタイを緩め、
そしてスーツを優しく、ゆっくりと剥ぎ取っていく。

そしてやがて二人は、生まれたままの姿になる。
どちらも何も喋らない。
無言のまま、長年付き合ったカップルのように、
時折唇を重ねながら、お互いの身体を愛撫していった。

そして二人は重なった。
林のピストンは、かつての粗暴なだけのものではなく、
荒々しくも、どこか思いやりのあるものだったし、
それを受け入れるエリコも、情愛に満ちた声と表情を浮かべていた。

「あっ!あっ!あっ!……すごい!林君!林君……あんっ!あっ!あんっ!」
「島崎!好きだ!」
「あっ!そんな!言っちゃ駄目!……あっあっあっ!」
「なんでだよ!?好きな女に好きって言っちゃ駄目なのかよ?」
「やっ!あっ!…………だってぇ」
「なんだよ?」
「すごい……なんか、頭ボーっとしちゃう」
「知らねえよ。島崎、愛してるぜ」
「うっ、あっ……は、林君、林君……あっ!あっ!いっ!あっ!」
「なぁ島崎?時間延長しねえ?どうせ笹島来ねえだろうしさ。
 もっと二人で楽しもうぜ。明日休日じゃん」
「だ、だめぇ、そんなこと……勝手に……あっ!ひっ!あっあっ!」
「なんで?いいじゃん」
「だめ……ったらだめぇ……ああっ林君!あっ!あっ!あんっ!」

正常位で、舌を絡めながら、お互いの乳首を指の腹でなぞり合う。
そんな恋人のようなセックス。
「なぁお前って本当良い乳と尻してるよな」
「やっ!……もう」
林の毛深い両手が、エリコの美しい乳房を鷲掴みにする。
「これ何カップくらいあんだよ?」
「あっあっんっあっ……Cくらい」
「嘘つけ。これEはあるだろ?」
「そんな…あっあっ……無いってば」

両手で弄びながら、色素の薄い桃色の乳首を、
林の舌が撫でる。

「あっ、ひゃうっ!」
「なぁ?気持ちいいか?」
「う、うん……良い……かも」
「俺も良いぜ島崎」
「……本当?」
「最高だぜ」
「ああっ!もうっ……んっんっあっ!……あん!あっ!」
「俺のちんこ好きか?」
「……す、好き……なんじゃない?……あんっ!あっ!あっ!」
「おら!おら!もっと言ってみろ!」
「う、うるさい!……はっ、あぁんっそこだめ……」

そこで林はピストンの速度を緩め、
一転してじっくりとエリコの奥を撫で回すかのように、
ぐりぐりと腰を動かしだした。

「なぁ?今何が入ってんだよ?」
「んっ、あっ……ちょ……っとぉ……」
林の愉快そうな顔とは正反対に、
エリコは辛そうに顔をしかめる。
「なんだよ?」
「……う……」
「う?」
「……動い……て」
「動いて下さい。だろ?」
「動いて……ほしい」
「下さい。だ」
エリコの腰が、林の腰に押し付けるかのように、
艶かしく動く。
「……あっ……やぁ…………動いて下さい」
「何が入ってんのかちゃんと言ったらな」
そう言いながら、林はより一層大きく、
しかしゆっくりと円を描くように腰を動かした。
エリコは上体を少し浮かせ、林の腕を掴む。
「はぁ…あぁっ…………ペニス」
「あ?」
「林君の……んっ……ペニス」
「が何なんだよ」
「林君のペニスが…………ふぁっ……入ってる」
「どんな?」
「くっ……わかんない」
「わかんねーわけねーだろ」
「……ああっ……硬くて……大きい」
「好きか?大きいの」
エリコはその問いに、下唇をきゅっと噛み締め、コクコクと頷いた。
「ちゃんと言え」
「大きいの……好き……あぁ、やんっ」
「最初から言え」
「林君の……んっ……大きいペニス……はぁっ……好き、です」
「ちゃんと言えるじゃねえか」

激しいピストンが再開される。
「あっ!あん!あっ!すごっ!これ!すごいっ!ああっ!あっ!」
「……ああやべえ。出そうだ」
「いいよ!イって!林君も、イって!早く!ね?ね?」
「いくぞ!?いくぞ!?」
「あっ!あっ!あっ!うん!あ、あたしも!もうだめ!きちゃう!
 …………いくっ!いっちゃう!イクイクイクっ!」

エリコの両手足が、激しく林を束縛する。
しかし林はそれを強引に解くと、
自身をエリコの中から引きずり出し、
コンドームを取ると、エリコのお腹の上で射精した。
見るからに濃く、そして多量に飛び散ったそれは、
同じくらい白いエリコの肌を、万遍となく白く汚していった。
勢いよく飛び散ったそれは、エリコの顔をも濡らした。

エリコはその様子を、蕩けきった目でずっと追い、
「すごい……すごい……」
とうわ言のように呟いた。
そしてまだビクビクと射精の余韻に震える林の巨根を手に取ると、
「……やだ……熱い……」と言葉にすると、
よろよろと上半身を起き上がらせ、
そして、そのままそれを咥えた。

林はそのあまりの快感からか、
「し、島崎……」と呻くことしか出来なかった。
「んっ、ちゅっ、ちゅ……あむ、ちゅぱっ」
エリコは林の性器を頬ばりながらも、
何度も口から出して、その先端に愛しそうに唇を押し当てた。

林は腰を下ろすと、エリコもその動きの合わせて、
そしてお掃除フェラを続行した。
「島崎、吸え……まだ残ってるから」
「ん……ちゅっ、ちゅる……じゅる……じゅる」
エリコの頬の凹みが、どれだけ熱心に、
林の尿道に残った精子を吸いだそうとしているかを示していた。

そんな時、エリコの携帯が短く鳴った。
「笹島じゃね?」
エリコは舌で林の先端を舐めながら、折りたたみ携帯を開ける。
そしてそのままいくつかボタンを押すと、また林を咥えだした。
「いいのかよ?」
「うん……ちゅぱっ……先輩だった……」
「先輩?」
「主任」
「ああ。なんて?」
「ちゅっ……んむっ……今から食事でもどうかって……」
「へぇ、あの人も島崎の事狙ってんのかな」
「そんな、社交辞令でしょ……ちゅくっ……」
「わっかんないぜ。ああ、そこ良いな島崎」
「ここ?……先輩って……すごい良い人だよね……んちゅっ……」
「だな。俺上司で一番好きかも」
「あたしも……んっ、ちゅぱっ……一番尊敬してる……」
「で、断ったのか?」
「し、仕方ないでしょ!」
そして次は林の携帯が鳴った。
それを手に取ると、
「あれ、先輩だ。次は俺かよ」と呟く。
「もしもし?ああはい大丈夫です」
そう受け応えしながら、フェラを続けるエリコの頭を撫でる。
エリコはそんな林を上目遣いで見つめながら、
玉を舌で転がすように舐め始めた。
「え?飲みですか?今から?……すんません今は、
 はい。ええ。ちょっと今セフレと……すんません」
電話を切った林に、エリコが玉を手で撫でながら突っかかる。
「ちょっと、セフレってやめてよ」
「咄嗟だったんだから仕方ないだろ。
 じゃあ彼女って言えば良かったんかよ?」
「だ、誰があんたの彼女よ!」
そう言い捨てると、エリコは髪をかき上げ、再度咥えた。

「島崎……もういいぜ」
林のその言葉に、名残惜しそうに口を離す。
エリコの鼻息は、うっすらと荒いままだった。
林がそれをなだめるように、
彼女の頭を撫でる。

エリコは、もう一度林の性器に、口付けをした。

林がゆっくりと立ち上がり、
ティッシュをいくつか取ると、
エリコの身体を拭こうとしたのか、
しかし彼女はそれを手で制した。
「……いい……自分でする」
林は何も言わず、ティッシュを彼女の前に置いた。「俺シャワー行くけど、一緒に行くか?」
エリコは顔を伏せて、無言で首を横に振った。

「あっそ」
林が画面から消えた。
代わりにシャワーの音が聞こえてくる。
エリコはようやくのそのそと動き出すと、
胸元の精子を手に取り、それを舐めた。
「……うわ……苦っ……てか濃すぎ……」

そう言いながらも、彼女の指は、
身体に付着した林の精子を全て掬い取り、
そしてアイスを舐めるかのように、
指を口に入れて、その味を堪能するかのように舐めた。

彼女はしばらくその場で膝を抱えて座り、
また動かなくなってしまう。
時折、「はぁ……」と大きな溜息だけが彼女の口から漏れる。

一分ほど経つと、のたのたと膝歩きでベッドの上を歩き出し、
そして内線電話を取り、
「あの……すいません、よくわからないんですけど、
 ええ、その、はい、延長っていうのを、はい、お願いします」
受話器を置いて、何度か鼻を啜ると、
どこかおぼつかない足取りで浴室へと向かった。

その数分後、画面外からは、シャワーの音と同時に、
パンッ!パンッ!パンッ!という乾いた音と、
エリコの激しい喘ぎ声が聞こえてきた。

映像が一度そこで途切れる。
バッテリーでも切れたのか、それとも編集されたのか、
とにかく映像が戻った時には、時間表示は何時間も経っており、既に明け方だった。
画面はまたしても真っ暗で、音声だけ。
おそらくは帰りのエレベーターで、
機械の作動音と、キスの音だけが響いていた。
指定した階に到着したことを示す音と、
扉が開く音。
しかしキスが止む気配はなく、
「ちょ、林君、ほら、着いた着いた。どうどうどう」
とエリコの声。
「もうちょっと。な?」
「ん、もう……ちゅ……あっ……んっ」

映像はそこで完全に終了した。

「あの後は?」
そのDVDを観た後日、林にそう尋ねる。
「普通に帰った。ああでも島崎はお前ん家行ったみたいだぜ。
 ずっとアパートの前うろうろするだけで結局帰ったみたいだけど」
「何だそれ」
「お前に謝りたかったんじゃね?」
「まぁどっちにしろ家に居なかったけどな」
「ていうか本当に貰っていいんだな?」
「ああ良いよ。もう身体はお前のモノって感じだろ?」
「あいつも最悪な奴に惚れちゃったな」
「お前よりはマシだよ。ていうかお前、浴室でヤったってことは生でしたのか?」
「ん、まあな」
「よくエリコ許可したな。僕もしたことないのに」
「フェラさせてたら、うっとりしてきたもんだからよ、
 ま、最終的には強引にしたんだけどな。
 入れたらこっちのもんよ。
 でも生での最初はお前だって言ってたぜ?律儀だなあいつ。
 立ちバックでやりまくって、最後はこっち向かせて
 顔に出してやったら向こうから舌出して掃除してくれたわ」



そしてついに、エリコが僕の手から離れる日がきた。

林が、エリコを僕抜きで誘った。
もちろんそれ自体は僕の提案だ。
しかし彼女の反応は、当然それを拒否するものだった。
「そんなの、ただの浮気じゃん……」
「いいじゃんもう何回もしてんだし」
「それはっ!……一応俊君の許可が……」
「笹島の許可があったらいいのか?
 今更だけど、そんな関係おかしくないか?
 俺は笹島にむかついてるぜ。
 島崎のこと傷つけてばっかでよ」
「それは……俊君なりにあたしとの事考えて……」
「俺なら絶対そんな事はさせねえ。
 お前にそんな事はさせねえ。
 な?俺の女になれよ?」

就業中の昼休み、こんなメールのやり取り。
ちなみに林のメールの文章は、僕が作ってやった。
身体は元より、心も林に傾きかけていたはずだ。
あんな乱暴に絶頂は与え続けられ、
その最中に耳元で愛を囁かれ続けられたエリコの心は、
もう林に向いてしまっていて当然だ。

しかしエリコはそれを受け入れなかった。

「ごめん、嬉しいけど、やっぱりそれは駄目」

その拒否は、最早僕への恋心というよりは、
単純に罪悪感からくるものだったのかもしれない。
それともただの意地か。

とにかく仕方ないので、強引な手を使う。
ただ僕のほうから別れを告げて、
それで林に慰めさせればそれで良かったのだが、
どうせだったらと最後までゲーム感覚で楽しむことにした。

林に次のメールを送らせた。

「今まで黙ってたけどよ、あいつ浮気してるんだぜ?
 俺許せなくてよ。だから俺と付き合えって」
「嘘だ」
「本当だって。今夜も、ほら生産部に鈴木っているだろ?
 あいつの誘いで合コン行くらしいしさ」

付き合いの悪い僕にも、何かと合コンを誘ってくる同僚がいた。
自分で言うのもなんだが、僕が居ると相手の受けが良いのだろう。
今まではその誘いに乗ったことなど殆どないのだが、
その日も偶々誘われていたので、それをダシにさせてもらった。
ついでに合コンも実際参加することにした。

定時後、エリコからメール。
「今夜ご飯作りに行っても良い?ビーフシチューだよ」
「ごめん。今晩用事あるから」
それからエリコの返信は無かった。
その代わり、合コンの待ち合わせに居た鈴木から、
「おいおい。俺今日島崎に声掛けられちゃったよ。
 やっぱあの子良いな。一回誘ってみようかな」
「何て言ってたんだ?」
「え?ああ何だっけかな。『今晩合コンするの?』だってよ。
 そんで『誰が来るの?』って。
 一緒に来る?って誘っときゃ良かったな。
 どうせ島崎以上のなんて居ないだろうし」
「それで?教えたのか?」
「ん?ああ。珍しく笹島も来るぞ、って。
 何かまずかったか?」
「いや全然」

もう陽が落ちていた。
今頃、エリコは林と愛し合っているのだろうか。
そんな事をふと考える。

その晩は、合コンで適当に摘んだ女を、部屋に連れ込んで抱いた。
安い女だったが、抱き心地はまぁまぁだったので、
一晩で何度か抱いた。

その最中、林から「今どこで何してる?」とメール。
素直に現状を伝える。

その晩は、そのまま何事もなく終了。

次の日の朝。
行きずりの女を帰すと、入れ違いでエリコがやってきた。

その目は真っ赤に腫れており、
表情もどことなく青白かった。

「何?」
白々しく僕がそう尋ねると、
エリコは頭を軽く下げて、
「ごめん、あたし、林君と浮気しちゃった」
と、弱弱しく、でもどこか吹っ切れたような口調で言った。

そのまま数秒の沈黙。
「そうか。そんな女だとは思わなかったよ。別れてくれ」
僕のそんな冷たい言葉にも、
「……はい。ごめんなさい」
ともう一度頭を下げると、
荷物をまとめて、そして出て行った。

後に林から聞いた話。
その前日の晩。
エリコは林と二人で居たものの、
結局一度も身体を許さなかったそうだ。

一緒に飲みに行ったりはしたものの、
どこか踏ん切りがつかない様子のエリコに焦れた林は、
僕が合コンから連れ帰った女とセックスをしている最中に、
エリコを部屋の前まで連れていき、そしてその声や音を聞かせたらしい。
それを聞いたエリコは、膝から崩れ落ち、ずっと泣いていたとのこと。
その後は、林のほうも空気を読んで、
ずっと胸を貸して、慰めの言葉を投げかけていたらしい。
その間、エリコは、
「きっと、あたしがいけなかったんだ」
と繰り返していたそうだ。

そして朝、エリコは、部屋から女が出てくるのを確認して、
その後は、僕も知るところである。

エリコは、結局僕を一度も責めなかった。
林との肉欲に溺れ、もう僕の事はどうでも良かったのだろうか?
そうとは思えない。
おそらく彼女は、本気で、心の底から、
自分に問題があったんだと自責していたんだろう。

そして僕達は、そんなどこにでもある、
普遍的で、退屈な、男女の別れを経験した。

僕にとってはお気に入りのキーホルダーを失くした程度のことだったが、
エリコは、人生初の失恋だったはず。

その後の数週間。
意外にも意外。
愚直が売りのはずの林は、
エリコの身体に触れることすらせず、
ただひたすら献身的に、
彼女を慰め、
そして同時に、愛を囁き続けた。

そして一月後のある日。
エリコの方から
「好きです。付き合ってください」
と林に頭を下げたらしい。

エリコをモノにした林は、
早速自身の性癖を解放していった。

僕と複数プレイを行っているころからその部分は見え隠れしていたが、
彼は女性に対する極度の加虐嗜好を持っていた。
そしてエリコは言うまでもない、その逆だ。

僕はプレイとはいえ、女性を苛めるのは理解が出来ないので、
そういった部分でエリコを満足させていたとは、
とてもじゃないが言い難いだろう。
せいぜい林との複数プレイくらいだが、
あれは自分が楽しむためにやっていたことだ。

そんな二人は、性に関してはまさに理想のパートナーと言えただろう。
日に日に、林の僕への報告はエスカレートしていった。

下着を捌かさずに、スカートを履かせてデートに始まり、
それを就業中に強制するまでには、そう時間が掛からなかった。

エリコはあくまで嫌がっているということなのだが、
「たまに手を入れて確認すると、ぐっしょぐしょに濡れてんだコレが」
と楽しそうに笑う林。
「この間も、深夜に全裸で外歩かせたんだぜ。
 帰ったら怒ってきたけど、膝までぐっしょりだったな」

そんな関係になってからも、エリコの普段の態度は変わらなかった。
強気で、冷淡な、仕事の出来る女性であり続けた。
それは林に対しても同じで、
職場の二人を見れば、
以前から何ら変わらない関係にすら見えた。

男が変わったからといって、自分を変えたくない、
というエリコの強情さの賜物と言うべきか。

そんな態度が、林をたまらなく燃えさせたのだろう。
「普段は小生意気なままなのに、夜はキャンキャン喘ぐからな。
 それでもなんつうか、屈服しないのがたまんねえっつうか」

ある日、林に一枚のDVDを渡された。

家に帰り、DVDをデッキに入れる。
それには、付き合い始めのころの様子が映し出されていた。

相変わらずの盗撮のようだが、
まず映ったのは、全裸のエリコが、
ベッドの上で両手を拘束され、
四つん這いになり喘いでいる姿だった。

しかし林の姿はそこになく、エリコに快感を与えているのは、
彼女に刺さったバイブだった。
しかもそれは、性器ではなく、アナルの方へと突き刺さり、
それはウィンウィンと電動音を鳴り響かせ、
両手を拘束され、高く突き上げた彼女の臀部で、
自動的にぐるぐると回り続けていた。

「ひっ、ひっ、んっ、あっ」
まだ開発されて日が浅いのか、
エリコの声からはどこか息苦しさを感じた。

やがて始まる、二人の愛の営み。
相変わらず林のセックスは獣のような激しさで、
エリコの華奢な身体が壊れてしまうのではないかと心配してしまう。
しかしエリコはエリコで、それを望んでいるかのように、
林に更なる激しさを求める。

「いっ!あっ!あっ!あんっ!あっ!」

林の豪胆な腕の中で、対面座位で激しく揺さぶられるエリコのアナルには、
先程とは違う、棒状のアナルビーズのようなものが詰められており、
林がエリコを上下にピストンする度に、
それも連動して同じ動きを見せていた。

そんな折、エリコの携帯が鳴った。
「誰だよ?」
林が軽くピストンをしながら、着信先を確認するよう促す。
「せ、先輩……あぁっあっあっあっ!」
「またかよ。本当お前にご執心だな。良いぜ。出ろよ」
そう言うと、林は腰の動きを止めた。
エリコは抵抗する気力もないのか、
「……絶対動かないでね?」
と対面座位でつながったまま懇願すると、携帯を耳にあてた。
「もしもし。はい島崎です。はいお疲れさまです。なんですか?」

エリコが電話中、林はエリコの首筋を舐めたり、
耳たぶを噛んだりして、その度にエリコは、
電話を耳元から離して、抗議めいた目で林を睨んだ。
要は、いちゃついていた、という事だ。

「ええ。はい。……付き合ってる人ですか?いませんけど」

僕の時と同じように、林も付き合っているのを秘密にしていた。

「え?……はい……すみません……あの、お気持ちは嬉しいんですけど……
 はい……あの……今好きな人いるんで……」

そう電話の先の主任に受け応えすると、
エリコは素早く、林に唇を重ねた。

「はい……いえ、そんな……はい、これからもよろしくお願いします」

エリコが電話を切ると、
「告られた?」
と林。
エリコは一瞬逡巡するが、「ん」と首を縦に振った。
「やべえ俺ちょっと罪悪感だわ」
林は少し顔をしかめる。
その言葉は本当だろう。
「うん……でも仕方ないじゃん」
そう言い、また自ら唇を寄せるエリコ。
「俺さー、主任にはお世話になったしなー」
そう言いながらピストンを再開していった。
「あっあっあっ……そんなの、んっあっ……あたしだって」
「そうだ。今度の主任の誕生日にお前の下着でもやるか?」
その言葉に、エリコの拳が林の肩を叩く。
「あ、あんたのでもあげたら?……あんっ!あんっ!あんっ!」
ピストンの激しさが増していく。
「あーあ。明日からどんな顔で主任と会えばいいのかね」
「あっ!あっ!あんっ!……そんなの……んっ!あっ!
 今まで通りで……あっそこだめっ」
「ま、いいけど」
そう言い林はエリコを抱きかかえたまま倒し、
彼女の膝を脇に抱え、奥まで挿入する正常位に移る。

「ひっ!あっ!おくっ!だめ!それっ!当たる!」

林が腰を振る度、やはりアナルビーズも尻尾のように揺れた。

「すご…い!きちゃう!ね!?林君!きちゃう!
 あっ……あっあっああっ……ああああああああっ!」

エリコの身体が飛び跳ねるかのように揺れる。
中が収縮したせいか、それともベッドとの接触のせいか、
アナルビーズが取れる。
僕の時だと、こんな絶頂の仕方はしなかった。
林も同時に射精したそうで、小さく呻いていた。

エリコの手足は林の身体を下から抱きしめたままで、
そして小さく舌を出して、餌をねだる小鳥のように、
キスを要求していた。

林がエリコから離れると、ゴムを外し、そして縛った。
それをエリコが横たわり、大きく胸を上下させながら、
物欲しそうな目で見つめていた。

息が整ったエリコは、ゴムをゴミ箱に投げ捨てた林の背中に抱きつき、
そしてその背中を、まるで自身の舌で洗い流すかのように無言で舐め始めた。
林のほうも、特にリアクションは無く、されるがままだったので、
二人の間ではきっといつものことだったんだろう。
徐々にエリコのその行為の箇所は下がっていき、
やがて彼女の舌は、あぐらをかく林の性器を捉える。

それも一通り終わると、林はエリコの頭に手を置き、
そして自ら四つん這いになった。
するとエリコは、その林の後ろに回り、
そして林と同じように四つん這いになり、
顔を林のアナルに近づけた。

エリコの舌が、林のアナルを舐める。
ペロペロと、犬が水を舐めるように舌を出し、
微かに音を出して、林のそれを愛撫し続けた。

そして狙ったかのように、林の携帯が鳴る。
「多分主任だろうなぁ。
 何かしらお前に断られると俺にかかってくんだから」
そう言うと、そのままの状態で電話に出る林。
エリコは、「ん?」と首を傾げて、
そして再度舌を出し、アナル舐めを再開した。

「はい林です。はいはい。今からですか?…わかりましたよ。
 じゃあいつもの……はい」

林が四つん這いで電話をしている間、
エリコもずっと四つん這いで林のアナルを舐め続けた。
舌先でちろちろとくすぐるように舐めたり、
舌をべぇっと大きく出して、
玉の辺りから掬い上げるように舐め上げたりを繰り返した。

「やれやれ」と林が立ち上がると、
エリコは不思議そうな目で林を見上げる。

「ちょっと主任のやけ酒に付き合ってくるから」
「ええ〜」
不満そうな声をあげるエリコ。
「お前が振ったからだろ」
林が冗談っぽくその頭を小突く。
「いたっ。でも今日は泊ってって良いって言ったじゃん」
「しょうがねえだろ。あんま主任との付き合い疎かにしたくねーし」
「ん〜、じゃあこのまま待ってて良い?」
「あ?別にいいけど、いつ帰れるかわかんねーぞ」
「ん、良い。待ってる。一緒に寝よ」
「ベッド狭ーんだよな……」
「もっと大きいの買おうよ。お金出すからさ」
腰を曲げる林と対照的に、首を上に向けるエリコ。
優しく交わる二人の唇。

服を着る林にエリコが問い掛ける。
「ねー、じゃあ林君は先輩がその、
 あたしを好きって知ってたの?」
「いや知らねーよ」
「そうなんだ」
「何でだよ?」
「いやなんで林君呼び出すのかなって。
 前から相談されてたのかなって思ってさ」
「たまたまだろ。いつも飲みに行ってるしな」
「そっか」
「それじゃ、どっかの誰かさんに振られて傷心の先輩を慰めてくるか」
「もう!意地悪!」
二人は再度唇を交わした。
「でも主任、お前に振られたなんて言うわけねーけどな」
「それもそっか。腐っても同僚だもんね」
「誰が腐ってんだよ」

映像はそこで途切れていた。

二人の関係はとても相性が良さそうだった。
エリコは絶対認めないだろうが、
心のどこかで自分が虐げられるのを期待していたし、
林はそんな彼女を彼なりのやり方で愛していた。

余談だが、林も彼女の元父親に絡まれたらしい。
二人で街を手をつないで歩いていたところを見つかり、
突然後ろから因縁をつけられたそうだ。
彼も彼なりに、エリコに歪んだ執着心を持っていたのだろう。
ただ僕の時と違うのは、流石と言うべきか、
林はエリコの元父親をいとも簡単に撃退して、
もう二度とエリコに近づかないことをその場で約束させたらしい。

その時、エリコはどう思ったのだろうか。
自分の人生や人格形成にまで大きく影響を与え続けた、
まるでタチの悪い虫歯のような存在だった元父親。
無視することも、除去することも出来ない存在。
それをいとも簡単に跳ね除けた林を、
彼女は一体どんな瞳で見つめていたんだろうか。
それは普遍的な恋愛感情とは異なるのかもしれない。
父親という呪縛が、別の対象に移っただけなのかもしれない。
しかし彼女にとって林は、唯一無二の存在になったのだろう。

しかしそんな二人の関係は、たかが数ヶ月で終わりを迎える。
エリコが二十歳を迎えてすぐの時だった。

「なんか飽きた」
林はそう言った。
気持ちはわからないでもない。
肉欲から入ってしまった関係というのは、
どうにも即物的になりがちだ。
ただ林が感じたのはそれだけでは無さそうで、
「なんか重いんだよな」
とも原因を口にしていた。
「時々結婚っていうか将来のことを意識させてくるっつーか」

エリコは林と人生を共にしたかったのだろう。
それほど長い付き合いではないにしろ、
そう確信するに値する何かを林に感じ取っていたに違いない。

しかし林は、そんな彼女の想いを鬱陶しいとしか思えなかったのだ。

そして二人は別れた。
というよりは、エリコが一方的に捨てられた。

エリコがどれだけ打ちひしがれたのかは知らない。
とりあえず、職場では何も変わらないままだった。
ただやはり元気は無かったといえば無かったが。

そしてその後は、前述したとおり、
エリコはこの話にも度々登場する先輩と交際を経て、
そして結婚することとなる。

繰り返しになるが、彼女は先輩を心から愛しているようだった。
最初は傷口を癒してくれる存在に、甘えただけかもしれなかった。
しかし彼女は、徐々に彼のことだけを見つめ始めたのだ。

先輩と付き合い始めたのも職場では秘密にしていたようだったが、
エリコはともかく、先輩の態度でそれは周りに筒抜けだった。
そんな頃、一度会社帰りの帰途で、
たまたまエリコとばったり二人きりになったことがあった。
「先輩と順調そうだね」
「まあね。やっぱりバレてるんだ」
エリコは僕との過去などまるで何事も無かったかのように、
あっけらかんとした様子で会話をしてくれた。
もう先輩と付き合いだして、2年ほど経っていたから、
僕も林も、もう過去のことと割り切れていたんだろう。

「先輩わかりやすいから」
「そっか。まぁ仕方ないか」
暫く無言で、二人の靴音だけが響く。
「先輩となら幸せになれるだろうね」
何となく気まずさを感じた僕は、
ついついデリカシーの無い言葉を口走ってしまう。
しかしエリコは気を悪くした様子もなく、
「あはは。そうだね」とカラカラと笑い、
そして
「でもね、あたし別に相手の人が悪かったなんて思ったことないよ。
 きっと自分も子供だったんだなって思うから。
 何にも知らない、子供だったんだなって」
「それを気づかせてくれた人って感じ?」
「こう……先輩が?うん、そうだね」

また暫く靴音だけ。
右手には繁華街が見えた。
エリコと林が、身体を重ねたホテルも見える。
僕は、エリコの手を取った。

彼女は足を止め、そして僕の方を見る。
僕も無言で、彼女を見つめた。

彼女はふ、と微笑み、
そして次の瞬間、
乾いた衝撃音と、そして痛みが僕の頬を襲った。

そして彼女は右手をぷらぷらと振りながら、、
「さよなら。笹島君」とだけ言い残すと、
一人カツカツとパンプスを鳴らし先へ歩いていった。

僕とエリコの話は、これで終わり。

頬を抑え、僕から離れていく彼女の後ろ姿を見ながら、
手放すには惜しい女だったな、と心の中で呟くと同時に、
先輩との未来を、どこか父親のような気持ちで祝福した。


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